そこから詳しく、充さんの話を聞いていく。
彼のお父さまはスウェーデンの方で、ヨーロッパではそこそこ有名な、現役アーティストであることが分かった。
お母さまは日本の人だそうで、充さんは肌は白いけど、見た目は丸々お母さまの血を引き継いだらしい、完全な日本人顔になっている。
目は緑で、鼻はちょっと高いかな? 
今はご両親ともスウェーデンにお住まいだそうで、日本にはいらっしゃらない。

 灯台を封印したとき、そのお父さまは二度とこの場所には誰も入れないようにと、知り合いのスイスの時計職人に頼んで、精巧な錠前を作ってもらったそうだ。
その特殊な鍵が精巧すぎて、ネットで呼び出せる鍵屋さんでは、開けられないらしい。
優秀なアーティストの能力も、こういう時には考えものだ。
とにかく、実際その場所に行って見てみないことには、話しにならない。
私たちはテラスから外へ出ると、灯台へと向かった。

 白い小さな灯台は、本当に小さな灯台だった。
三階建てといっても、土台部分の外周は、100歩も歩けば、すぐに1周出来てしまう。
入り口はアーチ型の鋼鉄製の扉で閉じられていて、一見しただけでは、どこにも鍵穴らしき穴もなければ、錠前のようなものもかけられていない。
単なる平たい鋼鉄の板が二枚ぴたりと合わさって、入り口を塞いでいた。

「なにこれ。鍵穴なんて、どこにも見当たらないじゃない」

 充さんは卓己に助けられながら、車椅子でここまで来ていた。

「そうなんだよ。この扉も父の特製品でね、鍵穴がないんだ」

 アーティスト軍団め。
こういうところで余計な遊び心を発揮しおって。
私は試しにその扉を力いっぱい押してみたけれども、ピクリともしない。

「これは予想以上に、手強そうね」

 千鶴はコンコンと扉を叩いて歩く。

「何かヒントみたいなものは、ないんですか?」
「さぁ。あのイタズラ好きの父さんのやったことだからねぇ」

 充さんはくすくす笑う。

「2本の鍵があって、それを同時に差し込まなくてはならない鍵だってことは、当時父さんに言われて、覚えている」
「2本の鍵で開けるんですか? その鍵はいまどこに」
「それが、父さんが家の中に隠したまんまで、結局僕たちには見つけられなかったんだ」
「はい?」
「うちの中の、どこかにあるはずなんだけどねぇ」
「じゃあ、その鍵を探すところから、始めないといけないじゃないですか」

 のんきな充さんに、私が絶望的な声をあげると、早くも飽きたっぽい千鶴が言う。

「じゃあ、おうちの中に戻りましょうか」
「そうだね。まずは、その鍵を探すところから始めよう」

 卓己までのんびりと、そんなことを言っている。
充さんは卓己に押されるがまま、再び家の方に向かって戻り始めた。
一通り灯台周辺の探索を終えた私も、急いで三人の後を追う。