「え、なに?」
「待ちなさい、想!」
あ、想のことか。
おばあさまの声に、まだエントランスから抜けきっていなかった想は、ビクリとして立ち止まった。
「想! あんた没収した家族会員のクレジットカード、私の鞄から勝手に抜き出したわね!」
おばあさまはもの凄い勢いで想を追いかけると、慌てふためく彼の腕をがっしりと捕まえた。
「返しなさい! 私はまだ、あんたを許したわけじゃないよ!」
「もういいでしょ。どれだけ我慢させるんだよ、もう一週間だよ」
「あんたがちゃんと反省するまで!」
「反省したって!」
「反省した人間が、どうして黙ってカードを抜き取るの!」
想は自分の腕を掴んで揺り動かす祖母の手を、突き飛ばすように振り払った。
「俺じゃないって。盗んだのは!」
よろけた彼女は、すぐにボディガードらしき男性陣に支えられる。
「見張りに立てといた黒田さんから聞いたわよ。あんたが鞄を漁っていったって!」
「違うし」
想と目があった。
その瞬間、彼の指がビッと私を差す。
「この女に頼まれたんだよ。あんたの大事な指輪をとってこいって!」
「なんですって?」
え? 突然なに? 大事な指輪って?
白髪のおばあさまが、私を振り返る。
「こいつ、三上恭平作品を集めてるだろ? だから俺に、あんたのペーパーウェイトを譲れって、しつこく迫ってきたんだ」
ちょっと待って。
確かに私はあんたにしつこくつきまとってはいたけど、ペーパーウェイトのことしか知らない。
「それでさ、あんたの大事にしてる指輪の話しをしたんだ。そしたら逆にそっちに興味持っちゃってさ。実物を見て鑑定したいから、取ってこいって言うんだ」
「大事な指輪? なにそれ!」
彼の言葉に、おばあさまの顔色がサッと変わった。
「想。あんたは、あの指輪まで持ち出したの?」
「だから! この女にしつこく頼まれたんだよ。その証拠に、コイツのバックの中に、あんたの大事な指輪とペーパーウェイトが入ってるよ」
彼女はすかさず、私からバッグを奪い取る。
「ちょ、待って下さい!」
彼女は乱暴に鞄をあけると、それを逆さにして全てを床にばらまいた。
「やめて!」
カランと音を立て、おじいちゃんのペーパーウェイトが転げ落ちる。
スマホや化粧品だなんてどうでもいい。
真っ先にそれを拾い上げた。
よかった、割れてない!
それでもおばあさまは、執拗に鞄を揺すり続けていた。
最後に古ぼけた小さな指輪が、そこから転げ落ちる。
「ほら、ね。俺の言ったこと、嘘じゃないでしょ?」
「ち、違います! 私が盗ったんじゃないんです。想が、想が勝手に私の鞄に入れたんです!」
あの時だ!
想が私の鞄にウェイトを入れた時、一緒にこの指輪を忍ばせたんだ!
彼女は黙って、床に転がった石も入っていない質素な古い指輪を拾い上げる。
「あなた、この指輪に見覚えがあるの?」
彼女が差し出したそれは、細く繊細な作りで、確かに古い品ではあったけれども、色あせたシルバーの細やかな装飾で絡み合うツタと葉が表現された見事な作品だった。
「待ちなさい、想!」
あ、想のことか。
おばあさまの声に、まだエントランスから抜けきっていなかった想は、ビクリとして立ち止まった。
「想! あんた没収した家族会員のクレジットカード、私の鞄から勝手に抜き出したわね!」
おばあさまはもの凄い勢いで想を追いかけると、慌てふためく彼の腕をがっしりと捕まえた。
「返しなさい! 私はまだ、あんたを許したわけじゃないよ!」
「もういいでしょ。どれだけ我慢させるんだよ、もう一週間だよ」
「あんたがちゃんと反省するまで!」
「反省したって!」
「反省した人間が、どうして黙ってカードを抜き取るの!」
想は自分の腕を掴んで揺り動かす祖母の手を、突き飛ばすように振り払った。
「俺じゃないって。盗んだのは!」
よろけた彼女は、すぐにボディガードらしき男性陣に支えられる。
「見張りに立てといた黒田さんから聞いたわよ。あんたが鞄を漁っていったって!」
「違うし」
想と目があった。
その瞬間、彼の指がビッと私を差す。
「この女に頼まれたんだよ。あんたの大事な指輪をとってこいって!」
「なんですって?」
え? 突然なに? 大事な指輪って?
白髪のおばあさまが、私を振り返る。
「こいつ、三上恭平作品を集めてるだろ? だから俺に、あんたのペーパーウェイトを譲れって、しつこく迫ってきたんだ」
ちょっと待って。
確かに私はあんたにしつこくつきまとってはいたけど、ペーパーウェイトのことしか知らない。
「それでさ、あんたの大事にしてる指輪の話しをしたんだ。そしたら逆にそっちに興味持っちゃってさ。実物を見て鑑定したいから、取ってこいって言うんだ」
「大事な指輪? なにそれ!」
彼の言葉に、おばあさまの顔色がサッと変わった。
「想。あんたは、あの指輪まで持ち出したの?」
「だから! この女にしつこく頼まれたんだよ。その証拠に、コイツのバックの中に、あんたの大事な指輪とペーパーウェイトが入ってるよ」
彼女はすかさず、私からバッグを奪い取る。
「ちょ、待って下さい!」
彼女は乱暴に鞄をあけると、それを逆さにして全てを床にばらまいた。
「やめて!」
カランと音を立て、おじいちゃんのペーパーウェイトが転げ落ちる。
スマホや化粧品だなんてどうでもいい。
真っ先にそれを拾い上げた。
よかった、割れてない!
それでもおばあさまは、執拗に鞄を揺すり続けていた。
最後に古ぼけた小さな指輪が、そこから転げ落ちる。
「ほら、ね。俺の言ったこと、嘘じゃないでしょ?」
「ち、違います! 私が盗ったんじゃないんです。想が、想が勝手に私の鞄に入れたんです!」
あの時だ!
想が私の鞄にウェイトを入れた時、一緒にこの指輪を忍ばせたんだ!
彼女は黙って、床に転がった石も入っていない質素な古い指輪を拾い上げる。
「あなた、この指輪に見覚えがあるの?」
彼女が差し出したそれは、細く繊細な作りで、確かに古い品ではあったけれども、色あせたシルバーの細やかな装飾で絡み合うツタと葉が表現された見事な作品だった。