「…見てない」
どうせバレてるんだろうけどね。
意味もない嘘。あたしは前を向きながら淡々と。
「ふーん」
って、やっぱり信じてない。
というか、『嘘ついてんなコイツ』っていうニュアンス?
「男の俺から見てもイケメンだと思うわ」
「……」
「学生時代とか超モテたんだろうな」
なにが言いたいの?
わざわざ先生の話題持ち込むなんて…。
乃蒼はね。みんなの悪いとこ取り。
茉白くらい容赦なくて、先生くらい意地悪。
「じゃあ、乃蒼は……好きな人いないの、相変わらず」
これ以上先生のことを言われたくなくて、話を変えた。
乃蒼は去年からずっと彼女も好きな人もいない。
かわいそーな男。
だから、慈悲深い弥生ちゃんが聞いてあげたっていうのに。
「…いるよ」
そんな切なそうに瞳を揺らしながら言われたらさ。
…驚くよりも先に、何かあったのかなって心配になるじゃん。