遥さんは口もとに笑みを浮かべて、あくまで冷静に由希ちゃんと話す。


「俺は付き合うのも結婚もたいして変わらないと思ってますよ」

「いやいや、女にとっては一生のことなので。あなたは変わらなくても、いろはには人生がかかってるんですよ」

「ええ、もちろん。責任を持っていろはさんを受け入れる覚悟です」


 空になった由希ちゃんのグラスに、遥さんはワインを注ぐ。

 由希ちゃんは上目遣いで遥さんをじっと見つめている。

 私はドキドキが止まらなくて、それ以上食事が進まないでいた。


「えっと、由希ちゃん……ちょっと酔ってる?」


 これ以上、妙な空気になりたくなくて、私は由希ちゃんに話しかけた。

 しかし、彼女は私を無視して続ける。


「いろは、高校生なんですよ。まだ、親の保護を受けているんです」


 それに対し、遥さんはにっこりと笑顔で返す。


「もちろん、わかっています。これからは、俺が彼女を扶養するのでご心配なく」

「社会に出たこともない女を妻にする覚悟、あります?」

「社会に出て変な虫がつくより、よほどいいですね」

「つまり、従順な女がいいんですね」


 ふたりのあいだに冷ややかな風が走った気がした。

 由希ちゃんは真顔で遥さんを見据えている。

 遥さんからは笑みが消え、彼は由希ちゃんを見下ろすように目を向けている。


「由希ちゃん……!」

 私は耐えられなくなってふたりのあいだに入った。