「ああ、もうこんな時間か」

 遥さんが壁時計に目をやった。

 時刻はもう10時を過ぎたところだった。

 時間を忘れるくらいおしゃべりに夢中になってしまったんだ。


「ごめんなさい。遅くまで」

「いいよ。こちらこそ遅くまでごめんね」

 遥さんは立ち上がり、私のそばに寄ってきた。ので、私も急いで立った。

 その瞬間、彼は私の背中にすっと手を伸ばした。


「遥さん?」


 突然、彼の大きな手に抱き寄せられた。
 
 斜め上から顔を近づけられて、とっさのことで瞬きも忘れてしまった。


 目を開けたまま、彼と唇が重なる。

 驚いて体が固まって、同時にふわっと柑橘系の大人な香りがした。

 それがとても魅惑的で、胸が熱くなった。


 キスは一瞬じゃなかった。

 彼はゆっくりと、何度も口づけをした。


 そのたびに、やわらかくて熱くて、呼吸が乱れてしまうくらいで。

 体の力が抜けて、私は彼の袖をぎゅっと握って足に力を入れた。


 こんなの心臓がもたないよ!!