一方、伊吹はひとりで絶叫系のアトラクションを楽しんでいた。

 しかし、腹が減った頃に、適当にホットドッグでも買おうと売店に向かっている途中、朝陽からメッセージが入ったのだ。


「迷子かよ。めんどくせぇ」

 伊吹は売店から離れて、ひびきの好きそうなメリーゴーランドあたりを探した。

 しかし、それほど時間の経たないうちに朝陽から『見つかった』と連絡があった。


「あのねーパンダ好きのおねえちゃんが風船くれたの」

 無邪気に笑うひびきを見て、伊吹は安堵のため息をもらした。


 疲れきった朝陽の様子を見た伊吹は少々罪悪感がよぎり、兄弟たちの面倒を自分が見ることにした。

 そんなとき、思いがけないことが起こったのだった。


 朝陽がトイレに行っているあいだ、全員でベンチの近くで待っていた。

 兄弟たちはふたりで戦いごっこなどをして遊び、伊吹は彼らの父親に「大変っすね」と話していた。


 そして、ひびきはまた、ひとりでふらふらしていた。

 しかし見えるところにいるし、目を離さないようにはしていた。

 そんなひびきが、いきなり他人に話しかけたのだった。

 伊吹が父親と一緒に駆け寄ると、ひびきは嬉しそうにこちらへ戻ってきた。


「お前、ちょろちょろすんなよ」

 と伊吹が言うと、ひびきはにっこりと微笑んで言った。


「ねえ、いぶき。あの人が風船をくれたパンダさん」

 伊吹は「は?」と怪訝な顔をしてひびきが指し示す人物へ目をやった。

 その瞬間、どきりとして彼は固まった。


 秋月いろは……!