迎えの車がやって来て、うちの門の前で停車した。

 おじさまは車に乗り込もうとして「そうだ」と思い出したように振り返った。


「いろはちゃんは覚えているかな?」

「何をですか?」

 訊ねると彼は表情をやわらげて口もとに笑みを浮かべた。


「遥にプロポーズしたことだよ」

「えっ!?」

 驚愕のあまり、目を見開いたまま体が固まった。


「君は4歳の頃だったかな。覚えていないだろうが、奏太とよく遊んでくれていてね。私たちは奏太のお嫁さんになってくれればいいのにと冗談で言っていたのだが、君はそのとき遥の嫁になるから無理だと言ったんだよ。いやあ、驚いたね」


 え、え……何それ。知らない、ていうか、覚えてない!


「まさか、本当にそれが実現するとは、さすがにそのときは思わなかったな。二度も驚かされたよ」

 にっこりと笑うおじさまに対し、私は固まったまま動けなかった。

 思考もうまく回っていない。


「それじゃ。遥のこと、よろしく頼むね」

「……はい」

 私は軽く手を振って、去っていく車が見えなくなるまで門の前で突っ立っていた。

 それから見えなくなっても、なかなか動けないままだった。


 えっと……ゆっくりと、記憶を辿ってみよう。

 今まで断片的だったものが、まるでパズルをはめ込むみたいに、綺麗に完成形へと向かっていく。


 そうだ。プロポーズの相手は……!