『そろそろ泣きついてくるかなと思ったんだけど』

「そんなことないよ! 今日だって先生がわかりやすく教えてくれたもん」


 ぜんぜん、理解できなかったけど。


『そうか、それならよかった。順調ならいいんだよ。少し留守にするから』

 どきりとして「えっ?」と声を上げた。


『出張で1週間くらい家にいないから。予定が詰まってて連絡も頻繁にできなくなりそうだけど、大丈夫かな?』


 別居中なのに、わざわざそんなことを前もって言ってくれるなんて、意外と律儀だなあと思った。


「心配しなくても大丈夫よ。私はひとりで頑張れるし、遥さんを頼りにしたりしないよ」


 ちょっと可愛げのないことを言ってしまった。

 本当は、心の底ではずっと、遥さんに会いたいし、数学も教えてもらいたいって思ってるのに。


 どうしてか、素直になれない。