「何を言い出すかと思ったら」

 遥さんは私から目をそらしながら苦笑した。


「本当のことよ! 何もできなくていい、そばにいるだけでいいなんて、そんなの人として見られていないってことだよ」


 私の頭の中には昼間に会った女性の姿が鮮明に浮かび上がる。

 遥さんと彼女は、まるで信頼し合える関係のようで、私は何もできない自分が心底恥ずかしくなった。


「バカだな。そういうのは甘えておけばいいんだよ」

 口もとに笑みを浮かべながらそんなことを言う遥さんに、私は強気で話す。


「結婚って、お互いに扶助するものだよ」

 事前にネットで調べておいた情報を伝えると、彼は深いため息をついた。


「言葉の綾だよ。君が何かできるようになれば、それはありがたい話だけど、無理はしなくていいと何度も言ってるよね?」


 そうだ。私は遥さんの優しい言葉に甘えていた。

 たとえ、それが彼にとって私をそばに置く計算だったとしても。

 私はそれに甘んじて、何も考えていなかったのだ。


「わたし……いろいろ、勘違いしてた」

「どういうこと?」

 目を細めて首を傾げる遥さんに、私はまっすぐ見つめて言った。


「わたし……遥さんのこと、好きかどうかも、わからなくなった」