ランチを終えたあと、1階のロビーに降りて、このあとカラオケに行こうかという話になった。

 その前にお手洗いを済ませておこうと思い、トイレに向かう途中ですれ違った女性たちの会話に足を止めた。


「ねえ、あの人、芸能人の誰かに似てない?」

「あれでしょ、翔真に似てるのよ」

「ほんとだ」


 どきりとして、彼女たちの視線の先に目をやった。

 そこには、よく知った人物がいた。


 すらりと背が高くて細身のスーツがよく似合っていて、立っているだけで女性の視線を集めてしまうくらい、よく整った男性だ。


「はるか、さん……」

 思わず呟いて、それからすぐ周囲を見まわした。

 うっかり誰かに訊かれてしまっていないか心配になった。


 前の私なら声をかけたのだろうけど、今はそういう気になれない。

 彼に気づかれないうちに黙って立ち去ろうと思ったけど、そのあとの出来事に体が動かなくなった。


「秋月課長、お待たせしましたあ!」


 遥さんに駆け寄っていくひとりの女性。

 スーツを着て、ヒールを履いて、メイクをして、綺麗にセットした髪型で、凛とした声で、笑顔で。

 大人の女性だ、と思った。


「待っていないよ。じゃあ、行こうか」

「はい」

 遥さんが女性に笑いかけるのを見て、胸の奥が痛くなった。