「別にリアルなんて求めてないのよー」
「推しを愛するのは自由ですからね!」
みんなの話が耳に入ってくるのに、だんだん意識がそちらから離れていった。
まるで遠くで知らない人たちが会話しているみたいに。
私が翔真を好きになったのは中学3年生の頃。
そのとき、ちょうどクラスの友達とケンカみたいなことになっていて落ち込んでいた。
私の心を救ってくれたのがアイドルグループ『SAMURAI王子』だ。
彼らの出ているテレビは必ずチェックしたし、ネットで彼らのことを調べまくった。
もちろん写真集やグッズは全部集めたし、雑誌の彼らの写っている部分は切り抜いて綺麗にファイリングして保存した。
特にリーダーの翔真が大好きで、彼のことが知りたくてずっとネットで検索していた。
舞台裏の写真が売っていたら全部購入した。
何時間も写真を眺めてにやにやしたこともある。
もし、おうちに翔真が来たら、などと想像したことなんか数えきれない。
もし、翔真が恋人だったら、と考えて彼に抱きしめられる想像もした。
もし、翔真と結婚したら、という想像だってたくさんした。
もちろん、それがリアルにはあり得ないことだとわかっていて、わかっているからこそ楽しめるものだ。
翔真は現実ではなく、理想のところにいてほしい存在だから。
当然、見返りなんて求めない。
だけど、恋人や夫婦ってそういうのとは違うよね?
――見返りはいらない。俺のそばにいてくれるなら、それでいい――
それじゃあ私、ただの人形だよ。