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 待ちあわせ場所に居たおじさんが、
本当に気持ち悪かった。

 だけど、判っていた。
 相手がダサければダサい程、
気持ち悪ければ悪い程、

佳耶達は、
それを喜んだ。

 もし、素敵な人だったら、
私にさせはしない。


 赤い服のキティちゃんを持たせて、
愛美が私を突き飛ばした。

 私を見つけたオヤジが、精一杯の優しい笑顔なのだろう表精を見せた。

 本当に悪寒が走った。
 
 だけど、引き返せない。

 後ろの様子を覗き見ると、ニヤニヤ笑っている皆の中で、佳耶が顎で行けと指図した。


 一足出す毎に、

   気持ち悪い。

    吐き気がする。



 
 そのオヤジに触れられた瞬間、
私は思わず、逃げ出していた。



  嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 その時は、何も考えられなかった。



 だけど、翌日、また、誰も話してくれなくなった。

 判っていた筈なのに。

 ただ、以前と違って、全く誰とも話せない事が、地獄になった。

 わざとらしくヒソヒソと話される事が、針のように痛かった。


 六月も半ばになると、突然、鈴が離しかけて来てくれた。
「おはよう」
 嬉しくて、自分でも驚くぐらい、泣いてしまった。
「どうしたのよ」
 挨拶ぐらいで、と鈴が優しく笑ってくれた。

 だけど、私が顔を上げると、佳耶に目配せしているのが感じられた。

「あ」


「佳耶が、放課後一緒に帰ろうって…」



 全身が震え出した。

 目の前が真っ暗になるなんて、そんなものじゃない。

 爪が当たって、机がカチカチ鳴るのがはっきり判るくらい響く。


 怖い。
 ただ、怖い。


 以前は、誰とも、一言も話せなくても平気だった。誰とも話せなくても生きていけるから…って、思ってた。


 だけど…。全部、判ってしまった。

 今度こそ、本当に。



 



  もう、誰とも話せないのは

      いやだ。