「悪かったな。気付いてやれなくて」

 私が皆に囲まれているから、中心で指示していたのが私だと思ったらしい。
 酷い事を言ったと謝ってくれたけど。それは私に向かって?
 それとも克己に対して?

 駄目だ、こうして捻くれて考えるのは止そうと思うのに。


「考えてみろよ。付き合ってる女に、大事に指一本出してない女に、妊娠したなんて言われてみろ。冷静でなんかいられるか」

 ああ、そうか。この人は本当にまっすぐな人なんだ。裏切られたことも無い。

「何、笑ってるんだ?」

 気付かない内に、私は嘲笑する癖がついていた。私は、なんて嫌な奴なんだろう。今は、そう思う。

「今まで、裏切られた事が無いから、腹が立った?」
「そう言う裏切りとは意味が違うだろう?」

 違うかな。

「そういう意味で言うなら、……俺は、裏切られてもいいって思う相手としか付き合わないから」

 里美に言われて、私は自分が、また、勘違いしていた事を知らされた。

「前の学校には一学期しか居なかったからなあ。今でも付き合いが有るのは、三人…かな。まあ、十分だろ」

 私だけが、酷い目にあって。
  私だけが苦しんだって思ってた。

「ここへ来て、半年で二人、いいんじゃない」
「え?」
「今なら、お前と克己は信じていいんだろう?」

 たった今、裏切られてもいい相手なんて言いながら、信じてるなんて言うんだね。

「じゃあ、裏切っていいの?」
 里美が苦笑した。
「誰も裏切れ、なんて言っていない」
 なんだろう…。はじめて、里美の言葉がまっすぐに入ってくる。


 裏切られてもいい。は、裏切らないと信じてるって言う事なんだね。