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 目が覚めると、病院に居た。
 どうして警察じゃなかったんだろうか、と思った。

 ただ。

 流産していた。

 側に、泣き崩れる両親が居た。それはそう。私が妊娠していた事も、気がつかなかったんだから。父が、何か、私を責めていた。

 援交の事?
  妊娠の事?
   流産の事?

 人を刺した事?

 音が聞こえても、
 声だとは判っても、
 言葉として頭に入って来なかった。
 人の声は全て雑音。

 だけど私は、辛い体と裏腹に、ただ、すっきりしていた。赤ちゃんが居なくなって、ほっとしていた。だって、誰か知らないオヤジの子供なんて欲しくない。って言うより、ぞっとする。
 はっきり言って、キモいオヤジとのキモい記憶。だから、気持ちの悪い生き物が体の中から消えてくれてほっとしていた。笑ってしまった私を、母親が怯えた顔で、揺さぶった。
 すっきりした。
 すっきりし過ぎて、私の中から何も無くなってしまった。
 私の頭が空っぽになった。考える事も、思う事も、もう要らない。
 きっと、心も、お腹も空っぽで、私はただの器になった。密封された器。だから、もう何も入らない。
 もう、だって、何も入れたくない。誰の言葉も入れたくない。もう入れなくてもいいんだ。私はただ、ベッドに眠っていればいい。

 なのに突然、克己が病室に訪ねて来た。