それから一週間程経った頃。

 脇田君の所へ、棚橋君の方から、駆けて来た。
「あのさ…。……里美って、呼んでいい?」
「……ああ…いいよ」
 馴れ馴れしいとは思わないんだ。

「それから…。オレのことも、克己って、呼んでくれていいから…」
「……わかった。そうするよ」
 あどけないほど、嬉しそうに笑って、棚橋君が駆けて行った。


「なんか、珍しいね、棚橋君…」
「…………さとみって言いたいだけだろ」
 え?
 意味が解らない。

「そうなの?…じゃあ」
 呼びたいなら、呼んでいいの?
「…ねえ、私もそう呼んでいい?」

「里美って?」
「…そう」
「ああ、いいよ」

 そんな事は何でも無いと言うのだろう。私の決死の思いも知らず。
 今まで、男子を名前で呼び捨てにするなんて無かったから、ふと、口を吐いていた。

「棚橋君にも…聞いてみようかな」
「いいって、言うんじゃないか」
 なんだろう、あの子なら呼び捨てにしても許されるんじゃないかと思った。
「そうかな」

 後から思えば、
 あの子だけは、見下せると思っていたのか、
 それとも、単純に嫉妬で張り合っていたのか。

 ここからだけは弾き出されたくないと思って、名前で呼び合うと言う事に、しがみ付いたのか。

 でも、お陰で、私は里美に近づけたし、
 他人から見れば、付き合って見えると思う。
 その様子を、佳耶は、満足そうに見ていた。


 いつの間にか、私は、里美の傍に居る事が、
 二人でいる時間が、楽しくてしかたなくなっていた。
 そう。


 まるで、本当に付き合っているかのように…………




…………………………錯覚していた。