もともと、アーネストとの結婚は親同士が決めた政略結婚。
 王太子妃は国の繁栄と平和を願い、尽力するのが使命である。そこに当事者間の恋愛感情は一切必要ない。
(恋愛感情は必要ないけど、殿下とは信頼関係が築けたら良かったのに)
 フィリーネは苦笑いしそうになった唇を噛みしめて目を伏せた。


 本来(いさか)いが起こった時は、双方の意見を訊くのが筋である。しかし、それが行われないのはアーネストの性格が起因している。
(殿下は自分のお気に入りの話は素直に聞くけど、気に入らない人の話はとことん拒絶するきらいがある。私は殿下の中で後者だから、どれだけ無実を主張しても、聞く耳を持ってくれない……)
 仲良くなる努力をしなかったわけではない。これまで幾度となく、アーネストが好きなものを吸収して歩み寄ろうと頑張ってきた。しかしその度にアーネストには無視されて終わってしまった。
 恐らく、今回もフィリーネの話は一切聞いてもらえないだろう。
 フィリーネが困却して黙り込んでいたら、アーネストはフィリーネが自分の非を認めたと解釈したらしい。
 途端に勝ち誇ったような声を出す。