空気の抜けるような音と共にバスが停車し、ガタガタと音を立ててドアがスライドする。

ステップを上がって乗ってきた1人の青年。

胸がどきどきする。

彼の髪が朝日に照らされて、輝いている。

まだ眠いのか、目をこすっている。

スマホを持っている片手は傷1つなく、程よく角張っている。

恋は人を盲目にさせるとよく言うけれど、もっともだと思う。

彼の一挙一動がとても目について、愛おしい。

目が合って、手を小さく振ると口をぱくぱくさせて、「おはよ」とやって微笑んでくれる。

私にはそんな細かいやりとりがとっても嬉しい。

けれど不思議なことに学校では全く会わない。

すれ違ったとしても目さえ合わせてくれない。

私と彼がこういうことをするのはバスの中だけなのだ。

秘密の関係みたいで少し嬉しくて、ふふっと笑みが溢れる。


「何笑ってんの」
「わっ」


不意に背後から声をかけられて肩が跳ねる。

どうやら彼は私の後ろの座席に座ったようだ。


「急に話しかけないでよ。びっくりした…」
「人の顔見て笑ってる奴が何言ってんだか」
「何でもないよ」
「絶対なんかあるだろ」
「ホントにないって」
「そうかー?」


少し笑って分厚い参考書を広げ始めた。

特進科の彼。

難しそうな問題もスラスラと解き進めている。

勉強熱心。そんなところも好き、

なんて浮かれている暇は私にはなく、今年の夏には受験生の仲間入りだ。

同い歳なのに何でこうも違うのだろうか。

前を向き直して単語帳に目を向ける。

また何ページが進めるけれど、後ろにいる彼のことが気になって集中できない。

再び、窓の外の景色に目を向けた。