匠刀にだけ聞こえるくらいの小さな声で呟いた。

彼の気持ちに応えるのは、これがベストだと思ったから。


「親父っ!!」
「おっ、……どうした」
「匠刀、病院では静かにしろ」
「っんなことはどーでもいいよっ」

そっと掴んでいた手が、ぎゅっと握り返された。

「今から、桃子の両親に結婚の挨拶しに行って来るっ!」
「はぁ?」

匠刀の両親、雫さんのご両親。
そして、虎太くんが驚愕してるよ。
だけど―――。

「さっきのプロポーズの返事、……今したので」
「マジで?!」
「……はい」

ありえないようなプロポーズだったけど。
彼の気持ちはちゃんと伝わったから。

驚愕を通り越して、唖然とする虎太くんを始め、両家のご両親の反応が凄い。

「モモちゃん、本当にいいの?」
「いいも何も……」

私が彼と一緒にいたいんです。
もう離ればなれになるのも嫌だし、彼の傍に知らない女の人がいるのを見るのも嫌なんです。
私だけの、匠刀でいて欲しいから。

「桃子、行くぞ」
「……うん」
「んじゃあ、そういうことで。桃子の気が変わる前に挨拶して来るっ」
「モモちゃん、俺らも後で挨拶に行くから」
「あ、はいっ」

背後から匠刀の父親が声をかけて来た。
振り返って会釈する余裕すらないけれど。

「匠刀」
「黙ってろ。……今は何も言うな」
「え?」
「やっぱりナシとか、もう少し時間が欲しいとか、そういうの全部ナシだかんな」

私の気持ちが変わるのを恐れてるみたい。
そんな私、頼りにならないかな。
……そうだよね、消えた過去があるもんね。

そりゃあ、不安になるか。