(匠刀視点)

6年会わない間に、桃子が必死に努力してたのは想像がついたけど。
『走れるようになったし、泳げるようにもなったよ』という言葉に、正直驚いた。

俺のそばにあのままいたら、6年経った今も同じだったかもしれない。
そりゃあ少しは体力がついて、少しずつ色んなことに挑戦してたかもしれないが、素人とプロの違いは歴然だ。

手から伝わって来た拍動は、とても穏やかなもので。

6年ぶりに抱きしめたりしてるのに、動揺して脈が乱れるなんてことがない。
俺は桃子に会えて、居酒屋で見たあの瞬間からずっと、心臓がバクバクしてんのに。

なんだよ。
俺だけかよ。
こんなにも会いたかったのは。

『ちゅーしていい?』
6年ぶりに口にした言葉。

クリスマス直前のイルミネーションをバックにしたシチュエーションなのに。
少し驚いて照れただけで。

言った俺の方が心臓が壊れそうなくらい暴れまくってるとはな。
すっげぇムカつくのに。

なんだろ。
負けず嫌いな性格が顔を覘かす。

10年以上も片想いしてたあの頃に戻ったみたいで。
悔しいのに。
また惚れさせてみせるという自信が、どこからともなく湧いてくる。

俺の一途な想いをなめんなよ。

初恋だけでなく、2度目も3度目も4度目でも。
何度だって好きになるし。
何度だって惚れさせてやるんだから。

「ホテルに戻んないとダメ?」
「へ?」
「ここに泊まってけばいいじゃん」
「っ……さすがに、それは…」
「6年間遠距離してる恋人同士なんだから、友達だって空気読んでくれると思うけど?」
「っっ」