「いつでも好きな時に来ていいから」

手の中には、この部屋の合鍵と思われる鍵が。

「さっき居酒屋にいた亮介とか、仲のいいサークルメンバーにもこの部屋のことは教えてねーから」
「へ?」
「桃子が東京に来れる時に、俺が家にいるとは限らないけど、他の男が入って来る心配はないってこと」
「っっ」
「知ってるのは兄貴と両親だけだし。……突然来てくれてもいいんだかんな?」

ちょっと悪戯っぽく笑った彼。
おねだりする時の顔だ。

いいのかな。
散々嫌な想いをさせて、何も言わずに去った私なのに。

こんな風に、何事もなかったみたいに受けいれて貰えるだなんて。
罰が当たりそうだよ。

「今、無条件で甘やかされていいのかな?とか考えてんだろ」
「え?」
「顔に書いてある」
「なっ」

慌てて手で顔を覆った。
だけどそれは、彼の言ったことを肯定するのと同じことだと気付いた時には既に遅し状態。

背中に回された手が、6年ぶりに私の鼓動を読み取ってる。

「思ってたより、落ち着いてるな」
「……結構頑張って努力したからね」
「そっか」

水中ウォーキングから始まり、クロールや平泳ぎもできるようになったし。
今では1㎞くらいならジョギングみたいな軽い走りもできるようになった。

財前先生の紹介で、運動療法(処方箋)を取り入れた。
問診、メディカルチェック、体力測定など、様々な検査を受けた上で処方されたものを日々行う療法。

本当に少しずつ、毎日コツコツと積み上げて来た努力は、匠刀が思ってた以上だと思う。

「少しだけど、走れるようになったし、泳げるようにもなったよ」
「マジで?!」
「うん」
「すげーな」