真央の背に隠れながら、端からゆっくりと医学生をチェックする。

「……はぁ」

1軍男子と言われているだけあって、どの人も美形で育ちが良さそうだけれど。
桃子が会いたいと思っていた人物は、そこにはいなかった。

同じ系列の医療系学科という共通点から、あっという間に盛り上がって。
乾杯と同時に、音頭をしてくれた男子が自己紹介を始めた。

『合コン』という名の、遠慮のない品評会。
テーブルを挟んだ向かい側から向けられる視線に、早くも桃子は逃げ出したい気分になる。

「まお」
「ん?」
「これ飲み終わったら、ホントに先に帰るからね?」
「……分かってるって」

電車で15分ほどの場所に実家があるが、桃子は帰省せずに、あえて友人たちとホテルに宿泊予定。

実家に帰れば、近所に住んでいる匠刀に会うかもしれない。
ご近所さん(商店街の人達)から目撃情報が洩れて、匠刀が乗り込んで来るかもしれない。

そう思って、6年間ずっと避けて来たのに。
それとは矛盾するみたいに、今桃子は居酒屋にいる。

「モモちゃん、次何飲む?俺、ビール頼むけど、何か一緒に頼もうか?」

向かい側に座る男子が声をかけて来た。
確か、佐田さんって言ってたっけ。

自己紹介の際に、『桃の子と書いて、とうこといいます。みんなにはモモと呼ばれてます』と言ったから。
仲のいい友人たちも『モモ』と呼んでるから。

当たり前のように『モモちゃん』と呼ばれて、ほんの少しだけ後ろめたいような罪悪感が薄れた気がした。

『とうこ』と呼んでいいのは、両親と匠刀だけ。
6年経った今でも、それは変わらないから。