「お前が空手しなくなって、モモちゃんちにも行かなくなっただろ」
「……」
「一昨日、親父と整体しに行った時に、親父がモモちゃんの母親とこっそり話してたのが聞こえて来たんだよ」

やっぱりな。
親父は桃子の両親から桃子の様子を聞いてんじゃん。

幾ら俺が問い詰めたって、『知らない』の一点張りだったのに。

桃子に言うなと口止めされてるのも、桃子の両親から俺に言うなと言ってることも何となく勘づいてだけど。

無理やり聞き出したって、現実が変わるわけじゃないと分かってるから。
最近は、あえて聞かないようにしてた。

「詳しい場所は分からないけど、調子もいいみたいで。最近は敷地内にあるプールで、毎日水中ウォーキングしてるって」
「水中ウォーキング……」

桃子は俺と違って、立ち止まってないんだな。
桃子はちゃんと前を見据えて、今できることを必死に頑張ってるんだ。

「あとそれと」
「……ん?」
「ちゃんと友達ができたって」
「っっ…」
「全寮制だからだと思うけど、ルームメイトの子と仲良くなったってよ」
「……そうか」

心臓に難があることで、いつも気後れして友達が作れなかった桃子。
唯一、心を許した星川と離れ、新しい環境で独りぼっちになってないか、それが心配だった。

女子校というのにも、安心できた。
俺の知らないところで、俺以外の男と親しくしていると考えるだけで吐気がしてくる。

全寮制の女子校か。
桃子らしいな。

「モモちゃんも頑張ってんだから、お前も頑張れよ」
「……」
「実家がなくなることはないんだから、何年かしたら、帰ってくんだろう。そん時に、お前見捨てられても知らねーぞ」