桃子が俺のことを考えて、俺の前から姿を消したのは事実だけど。
だからといって、別れたとは思ってねぇ。

桃子からの手紙には、『別れよう』という文字はなかった。

確かにあの日。
『バイバイ』とは言われたけど、それが永遠の別れの言葉だとは思えない。

例え、別れたいと思ってしたことであったとしても。
今の俺にはまだ、現実を受け入れることができない。

好き。
大好き。
愛してる。

俺にとって、そんな安っぽい言葉で括られるような存在じゃない。

人間の体が、水や酸素を必要とするように。
俺には、桃子が必要だから。


「津田くん、今日の放課後、時間ある?」
「……」
「選んで欲しい服があるんだけど、一緒に来て貰える?」

何で俺がお前の服を選ばなきゃなんねーんだよ。

「あーっ、私が誘おうと思ってたのにっ!」
「残念でした~♪私の方が先に誘ったんだから」
「じゃあ、明日は私と一緒に!」

意味わかんね。
先とか後とか、関係なくね?

「悪いけど、放課後暇じゃないんで」
「えぇ~っ、だって今フリーなんでしょ?」
「あ?」
「仲村さんいなくなったんだから、新しい彼女欲しくない?」
「っ……」

すっかり忘れてた。
桃子と付き合う前は、こういう光景が日常だったということを。

「フリーじゃねーから」
「え?」
「だから、桃子(・・・)と別れてねーっつってんだろっ。ごちゃごちゃうるせぇな、食う気失せたわ」

俺は南棟のテラスを後にし、晃司がいる北棟のテラスへと向かった。