(匠刀視点)

2年に進級し、月日があっという間に過ぎ去ってゆく。

桃子がいないというだけで、他は何一つ変わってないのに。
見る景色も料理の味も、全てが味気なくて。

空手だけでなく、勉強していた毎日が、完全に時間が止まってしまった。

春休み明けの一斉テストの順位は理系で8位、普通科全体で19位。
今まで一日たりとも休まずに勉強して来たおかげで、何とか上位になれはしたが…。
このまま何もしなければ、成績は下がる一方だろう。

だけど、そんなことすらもうどうでもいい。
このまま、高校を中退した方が気持ち的に楽になれる気がして。

生きることすら、放棄したいくらい。
桃子がいなくなった日常が地獄そのものだ。

「匠刀~、一緒にご飯食べよ~」

誰だ、この女。

昼休みになったから学食に来てみれば、馴れ馴れしく俺の腕を掴んで来た。

「誰が名前で呼んでいいっつったよ」
「え?」
「気安く下の名前で呼ぶんじゃねーよ」
「っ…」

『匠刀』と呼んでいいのは、桃子だけだっつーの。

「前は呼んでも何も言わなかったじゃん」
「あ?」
「モモちゃんと別れたんなら、瑠美と付き合ってよ」
「……瑠美?」
「憶えてないの?去年はご飯何度も一緒に食べたのに」
「……」

あぁ、そんな奴もいたな。
一緒に食べたっつーより、勝手に隣りに座って食ってた女だ。

「言っとくけど、別れてねーから」
「えっ、そうなの?みんなが別れたって言ってたから」
「本人が別れてねーっつってんだから、別れてねーんだよ。勝手なこと言ってんな」