―――古家苺佳28才と大林瑤子 26才 ―――
県立など大きな病院は地方公営企業法を全部適用し、病院事業管理者及び病院局を設置、
地方自治体が電気、工業用水などを販売して得られる収入をもとに経営を行っている企業と
なっている。
・・なので、最先端の医療機器が揃っていて、難しい症状などの場合、
綿密な検査が受けられるのが利点だ。
だが、配置されている医師はというと、それほどベテランが揃っている
というわけでもないのが実情。
特に皮膚科に至っては医大を卒業し研修医として研鑽を積み、
そのまま流れてきているような状況で、いわばぺいぺいの寄せ集めみたいな科だ。
いうて、自分もその中の1人に過ぎない。
『症例をごまんと診てきた70代の開業医が手に負えない病気なんて、
たまさか検査で何か判る場合は別として、こちとらごときに判るはずもなく』
可憐で美しい古家苺佳の病気を治すことができなかったという心残り。
それが大林の呟きとなって口から零れ落ちた。
◇再会
大林は娘の通う幼稚園の入園式で古家苺佳を見かけた時には
息が止まるかと思うほど驚いた。
・・と共に何故か『いいなぁ~こういうの』という気持ちが芽生えてもいた。
しかし、悲しいかな大林にはこのようなシチュエーションで苺佳に対して
どう振舞えばいいのか、声の掛け方が分からなかった。
そこで彼女と近付きになる切っ掛けの欲しかった大林は
苺佳が自分の方を見ていたのに気づくと積極的に声を掛けた。
だが声の掛け方を間違えてしまったようで、目の前の可憐なその人は
半泣きで自分の言動に抗議している。
あわわわ、どうしようか! 大林は焦った。
彼女は私が診察の間彼女の事など何一つ見てなかったというようなことを
口にし、責めるのだが・・そんなことは断じてない。
『見てなかったという振り、ここに集った時もどのように声を掛ければいいのか
分からず、覚えてない振りをしていただけなんだけどなぁ~』と声なき声で呟いた。
「参ったなー」