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「私が悪いんじゃない。私はなにも見てない」


トイレの個室で奈穂は何度も呟いて自分自身に言い聞かせた。
豊の万引も一浩のラクガキも、自分はただ目撃してしまっただけだ。

あんなの見たくなんてなかった。
奈穂が目撃したことは誰も知らないから黙っていればきっと嵐は去ってくれる。

そう信じていた。
思えば奈穂はクラス会のときなどでもなにも発言ができないタイプだった。

手を上げてあれがやりたい、これはどうだろうと言える生徒にすべてを任せていた。
そうして誰かが引いてくれたレールの上を歩いていれば、まちがいないからだ。

もしも自分でなにかを発言して、それで責任が生まれたらどうするの?
責任なんて取りたくないし、任せられたくない。

だからいつでも流れに身を任せてきた。
きっとほとんどの子たちが同じだと思う。

発言できるほんの一握りの生徒たちの任せておけばどうにかなると思っている。