こんな時間からなにをしてるんだろう?
まさか、奈穂と同じように宿題を忘れたとかじゃないと思う。

一浩は宿題を忘れることくらいで、動揺するタイプじゃないから。
ということは、なにか他に理由があるはず……。

そう思って細く開けた隙間から覗いていると、一浩はマジックを片手に移動を始めた。
そして誰かの机にラクガキをはじめたのだ。

思わず「あっ」と声を上げてしまい、慌てて両手で口を塞いだ。
幸い、今の声は一浩には聞こえていなかったようだ。

一浩はまだ机にラクガキを続けている。
その机は千秋の机だとすぐにわかった。
なにを書いてるんだろう?

なんであんなことをするんだろう?
疑問は次々と浮かんでくるけれど、声には出せなかった。

黙ってジッと一浩の様子を見ていることしかできない。
声を出してしまえば最後、なにかとても悪いことが起こりそうで怖かった。

奈穂はしばらく一浩の行動を見守った後、そっとその場を後にしたのだった。