その夕方
17時に仕事を上がったミオは、スーパーに寄りスキヤキの具材を買って陽向汰のマンション
へとやってきた。

断ったはずなのにノコノコ出向いて季花が言うように馬鹿なのかもしれない。

「はぁー」
自分の不甲斐なさに、まだ陽向汰の呪いは溶けて無かった事を知る。
しかも陽向汰は大学の頃と同じマンションに住み続けていたとは・・・

今日は風がつめたい、陽向汰が温まるようにミオは鍋にする事を思い付いた、それに

大事に預かっていた合鍵を返す目的もあった、何年ぶりかに入る陽向汰のマンションは全然変わって居ない

花瓶に陽向汰の好きな赤いバラの花を飾り鍋の用意をする。

白菜を切り、エノキを切り野菜を切り揃える、陽向汰の好きなしらたきは多め
こんなに彼の好みを知っているのに彼女にはなれなかった、陽向汰はキスは愚か手を繋ぐことも無かった

いやいや悲しい事に家政婦でしか無かったのだろう だから今回も以前と同じ扱いをしてくるのは予想ずみ。

ふふっ
鍋の用意をしながら可笑しくなる。

そうだなぁ
違いがあるとすれば極上な牛肉が

売り出しの鶏肉に変化
ミオは節約という味方を手に入れた
鳥鍋という名目にすれば主役はコケッ🐔

20時、21時、22時、23時、陽向汰は帰って来なかった。

仕方がなく鍋は具材をまだ鍋に入れて無かったから冷蔵庫にしまってマンションを出る
陽向汰が帰って来て風呂に入る時鍋に火を入れる昔の週間は
中々抜けなかった。
出汁を取ったカツオとイリコの美味そうな匂いがミオを包んだが蓋をして片ずける。

12月に入ったばかりだが今日の冷え込みは1月下旬並みとTVで言っていた
マフラーをポイと首に巻き手を擦る
寒い、冷たい息は白くなり、ポカポカとカーライトをつけた車は何台もミオを追越していく車の明かりは列をなして
クリスマスソングの流れる町へと舵をとる。

陽向汰のマンションを振り返りながら
「来たのは要らぬお節介だったか!」
とミオは呟く。




マテーマテー待てミオ
1台のタクシーから声がする
ミオが立ち止まり振り向くと陽向汰が降りて駆けてきた。

180越えの背丈、切れ長でも丸い
目、きちんと整えられた髪は昔の
マシュマロカットのホワホワパーマでなくビジネスカットの凛々しい感じだった。


「きてくれてたのか?」
何故か陽向汰は昔見せた傲慢な笑顔じゃなく優しい笑顔を見せて来た。

「え・・・」
ミオはその顔に圧倒された
がその時

「陽向汰~💕︎💕︎あー」
艶かしい陽向汰を呼ぶ声に
ミオは、ハッと我に返った。


「お連れさんいらしたんですね
お変わりありませんね。」

嫌味を込めてミオが言うと
ミオは車の中の女性に目を向ける。
クルクルヘァーの彼女はミオになんの警戒も無いようでネイルの爪にフーフーと息を吹きかけていた。

相変わらずの美人好き、彼は
本当に変わらない
ミオは少し残念な気持ちになり

「失礼しま、あ!!そうだコレ」

ミオはポケットに手を入れ
合鍵を陽向汰に手渡すと、
「では、課長
失礼致します。」
そう言うと一礼してサッサカッサー
と歩きだした。


「ふぅー
会社辞めようかなぁ」
あんなんいたら仕事しにくいなぁ
そう思いながら歩くと
又さっきのタクシーが止まった。


「運転手さん
彼女をお願いします、先程
お願いしたことよろしくお願いします」


「はい、分かりました
急いで離れますね」
とニッコリ笑う運転手さんにお金を渡し陽向汰はタクシーから降りた

連れの彼女はビックリした様子で

「ひ陽向汰ー待って待っ」
タクシーは猛スピードでミオの横を通り過ぎた、陽向汰はミオを見てバッが悪そうに頭をかいた。

「帰ろう」

陽向汰が手袋を外し手を差し伸べてくれる、昔ずーっと憧れていた
スチュエーション

ミオがジッと手を見れば
クイクイと指先が動く。

「いいのかなぁ」

29歳のくせに嬉しくなったりする。

戸惑いながらも陽向汰の手に手を乗せた。
背の高い陽向汰の表情は分からないニヤリと意地悪く笑ってるのカモ分からない。

陽向汰の冷たい手とミオの暖かい手の体温が同じになる頃陽向汰の
マンションの前に着いた。

部屋に入ると陽向汰は

「ん?鍋」
と聞いてきた。

「うん、鳥鍋」
今までの敬語はどっかに行き
先輩後輩の頃の仲に戻っていた。

「さっきのカノジョさん大丈夫?」

「ああ、平気平気
ずーっと付いて離れないから
運転手さんに頼んでいたんだ
マンションに着いたら車を出して
くれって、ミオがいたからちょっと待ってもらって、作戦決行してくれた。」

あ、だから猛スピードで・・・

ミオは運転手さんの動向が成程と理解した。

部屋に入り陽向汰は真っ直ぐ
「風呂入って来る」
その順番は昔のまま

陽向汰が風呂に入るからミオが
鍋を用意する
グッグッと煮立つ鍋に豆腐スタンバイ

少しぷるんとした煮えすぎない豆腐が陽向汰の好み

風呂からドライヤーの音が微かに聞こえてくる、もうすぐ陽向汰がリビングにやってくるはず

ヒエヒエのビールをグラスに注ぐ
陽向汰のルーティンは変わっていない。

「ふうー気持ち良かった
ミオも入れ」

「うん、陽向汰が食事したらね」
アレ?昔と違う会話‼️

前は「ありがとうミオ
もう帰っていいぞ」

だったはず?

食材の文句も言わずパクパクと
鶏肉を食べしらたきを食べ
ウンウンと納得しながら絹豆腐を食べる



以前の陽向汰はなんやかんや口煩かった、せっかく作った料理も
嫌いな野菜を見ると激しく怒って来た。

しいたけ、
ピーマン
茄子
パセリ、
それを見て嫌な顔をしていた・・・ハズ

椎茸は
たんぱく質…
食物繊維
カリウム
鉄分…
マグネシウム…
葉酸…
ビタミンが入ってる

「ピーマンはね"

ナトリウム
カリウム は豊富
炭水化物
食物繊維
糖質
タンパク質
ビタミンC
カルシウム

ビタミンD
ビタミン
コバラミン
マグネシウムが入ってて」
とつらつらと言う私に


「もう、煩い煩い!
毎回毎回説教すんナ」
と言い残し部屋を出ていくありさま

陽向汰がいなくなった部屋で
「陽向汰の顔色が最近良くないから考えて作ってるのに」

と呟く声は陽向汰には届かなかった。

そんな昔を思い出す。

「ミオはたべないのか?」


「あ、ああ、ごめんなさい、直ぐ帰るね、目障りだよね
ごめん。」
エプロンを外すミオを見て
陽向汰は顔色を変えて怒って来た


「俺はミオはた、べ、な、い、の、か?と聞いたんだ、帰れ何て言っていない。」


その言葉にミオはギョッとして陽向汰を見る
陽向汰はスックと立ちミオの箸と皿を持って来た、あまりの言動に
ミオは呆気に取られたが

陽向汰のそばに座り

「頂きます。」
と手を合わせた。

グスッと鼻を鳴らし中々飲み込め無い白菜。
陽向汰は鶏肉や椎茸をミオの皿にポイポイと
入れ自分も椎茸をアングリと開けた口に放り混んだ。


「フフッ」
陽向汰が思わず見せてくれた笑顔を見て夢なら冷めませんように
とつぶやいた。

その夜は┣¨‡┣¨‡のお泊まりになった、嬉しかったが
スヤスヤと寝息を立てて秒で眠りに落ちた陽向汰を見て

「早ッ、寝るの早ッ」

フッ、我に帰ったミオは
「ダヨネー私がいても
ドキドキなんてしないよね」
と独り言を呟いた。

以前は陽向汰はミオが寝室に入るのは許してはくれなかった。
だから戸惑ってしまう

然しこのままでは陽向汰は風邪をひく禁断のベッドルームを開けたそして


陽向汰に毛布と布団を掛けて
ベッドルームを出た、以前陽向汰に言われた事が頭を過ぎる。


「ヤバ、まさかミオ
俺のベッドで、まさか
ヤバッ寝るつもりかぁー?
嘘だろー
バツゲームかよ」

そう言われた事を思い出すあの頃は彼の食事も落ち着いたのを見計らい
家政婦代わりにバタバタと動き回っていたミオはお腹も空いて来たし眠いし、陽向汰は寝室から出て来ないお気に入りのワインを寝酒に飲んでいるのだろう。
ヤレヤレとエプロンを外し

「飲みすぎないで陽向汰」
と一言残しマンションを出ていた
そんな下僕の日々を思い出した。

それから土日祭日は
夜通し飲み明かしたらしい陽向汰に
朝早く呼び出されたミオは
陽向汰の風呂の用意をし朝食 
を作り片付けをし溜まった洗濯を済ませた後陽向汰が風呂に入ったのを見計らい、少しだけとベッドに寄りかかり目を瞑った

どうやらそのまま寝落ちして
しまったらしい。

陽向汰は潔癖症でベッドルームにミオの髪一本でも落ちていればこんなにも酷い顔が出来るのか
と思うくらい凄い形相で睨んで来ていたあの頃。

だから今日は真逆の、泊まれと言われ少し期待してしまった。
今日の陽向汰は優しかった
まるで人が変わったようにさえ見える だからかな少し距離を縮めた気がしたのだ・・・

陽向汰は難しい男だがそれを
忘れそうになるくらい今日は優しかった。