彼だって乙女ゲーム攻略対象者の一人なので、もちろん美形かつ社会的成功者。多数の女の子からわかりやすいくらいにモテて、なんなら馬車を待っている様子のさっきも囲まれていた。

 ほんの一瞬だったから、ハイドは私には気がついていないと思いたい。っていうか、トリスタンに会えるまで、一切私の存在を忘れていて欲しい。

 とは言え、今はお忍びでもなんでもないので、この馬車の側面にはルメッツァーネ公爵家の家紋が、デカデカと描かれている。

 もし、彼が好感度MAX状態だとしたら、その対象の私が居るとバレてしまうととっても面倒なことになってしまう。

「……お嬢様?」

「別の門にまわって。ここは、人が多過ぎるわ」

 扉の前で待っている御者は「家のお嬢様は、一体何を言い出したんだ」と思ったはずだ。

 城の車止めには特に多くもなく通常通りの人出だったし、いつもの私だったら、問題なくすんなりと馬車から降りて城の中へと入っていただろう。

「かしこまりました……では、レイラお嬢様。裏門からでよろしいですか?」