多分、ここに居ることすら、緊急事態過ぎて気が付かれてないだけだけど。

「……どうしたもんかね。とにかく接触しなければ、大丈夫なんだろう? ひと月の間、ルドルフが遠方に逃げるというのは?」

 色っぽい未亡人と対面しなければ惚れ薬の効果が発動しないなら、物理的な距離を取ってはどうかというレギウス副団長のもっともな提案に、悲壮な顔をしたルドルフ団長は首を横に振った。

「駄目だ。こんな時に限って、王への年一度ある定例報告会が迫っている。団長の役職では、出席は逃れられん。王への報告も不可だ。立場上、惚れ薬を飲まされた不用意な俺が悪いで終わるだろう」

「あー……そうか。それは、確かにそうだな」

「ましてや、万が一逃亡先であの女と会ったらどうする? 王都であれば、周囲に見知った人もあり、俺の様子がおかしいと思う者も居て助けてくれるだろうが、それもなく女の言いなりになり、定期的に惚れ薬を飲まされ、良いように扱われるなど絶対にごめんだ」

 惚れ薬を飲まされた被害者、美々しい顔に苦悩の表情を浮かべているルドルフ団長は、王都を守る王都騎士団の団長である。