あたしの箸から、揚げ茄子が落ちてしまった。

しかもよりによって、
真ん丸の灰皿の中に。

呆然と揚げ茄子を見つめるあたしに親父は、
当たり前のように言った。

「食べなさい」

「食べれない」
だって、揚げ茄子の油は、タバコの灰を包み込んでしまっている。

「食べ物を粗末にするな!!!」

「食べれないって言ってんじゃん!!!」

怒鳴り返してから、しまったと思っても後の祭。

要領の悪いあたしは、いつも家族の雰囲気を台なしにする。

そして、一度怒りが込み上げると、止まらなくなってしまう。

これか、親父の遺伝なんだろうか‥。


ぞっとする。




あたしの口の中には、
灰だらけの揚げ茄子が、押し込まれた。

「飲み込みなさい」

無理矢理飲み込んだ揚げ茄子は不思議と何の味もしなかった。

「お前なんて死ね」

「親に向かって死ねとはどういうつもりだ」

「お前なんて親じゃ無い。おまえらなんて、家族じゃない!」


髪の毛を鷲掴みにされて、
部屋中を引きずり回される。

「親を何だと思っているんだ」


―――今のキック、お腹に思いっきり入ったんですけど―――

馬乗りになった、親父の手は
あたしを殴り続ける。


触らなくても、十分分かる。
あたしの顔は腫れ上がっている。

耳だって真っ赤になっている。

そして、明日になったら、
もっとひどいことになる。





―――あたしの顔見て、清水先輩、どう思うんだろう―――


朦朧とした、頭であたしは、そんなことを思っていた。

憧れの清水先輩。