せめて弟のクインが既に成人していれば、酒浸りのお父様を当主にしたままの不安定な状況を打破し、融資してくれる良心的な貴族だって居たはずだ。

 いいえ。私自身に何か、大金を稼ぐ能力があるのならば……何も悪くない、婚約者となった令嬢を気に入ってくれただけのギャレット様を傷つけずに済んだ。

 もう、わからなくなってしまった。

 自分と家族が今後の何不自由のない生活をするだけではまだ足りないくらいに、彼から向けられる愛の中は心地よかったせいだ。

 どうしようもない事情を抱えた、家族のせいにすれば満足なのだろうか。自分が不幸だと嘆き悲しんでも、もう状況は変わらないのに。

「……姉上」

 弟クインの遠慮がちな声が聞こえて、私は頭から被っていた上掛けを外した。

「え……クイン? どうして、ここに居るの?」

 クインは私を見て悲しそうな表情をした後、言いづらそうに口にした。

「そんなに泣いて……姉上。それは、こっちの台詞だよ。ベッドフォードから僕に連絡があったんだ。いきなり様子がおかしくなって、笑わなくなったと思ったら、ここ二日ほど一日中泣いていて、とても見ていられないんだと」