「わかったから。もう良いわ……貴方は、成人すればメートランド侯爵になるのよ。それだけを考えていなさい。貴族が爵位を奪われて……どんな悲劇を襲うか、貴方はまだ知らないでしょう」

 今ではもう頼る者が居ない私たちは社会の底辺で、泥を啜ることになる。産まれた時からそうであったなら、また違うのかも知れない。

 これまで何不自由なく育ってきたクインは、天と地ほどの落差に苦しむだろう。愚かな過去の選択を、未来に悔やむことになるはずだ。

「けど、僕は姉上を金で売り渡すくらいなら、何でも我慢出来るよ! 金持ちの後妻の話だって、本当に嫌だったのに。いつの間にか、王太子の婚約者に……それも、期間限定だなんて! 信じられないよ。いくら次の婚約者を用意して貰ったとしても、姉上は用済みになれば、王様になる人を裏切らなければならないんだろう? そんなことって……」

 私は熱くなり訴えるクインの隣に座り、彼の右手を取って摩った。

 優しい子だから……姉ばかりが何故苦しまなければならないのかと、そう思っているのかもしれない。