「……あれは、メートランド侯爵が、過去に元婚約者と住むはずだった家だったそうだ。クインとローレンが誘拐されて、犯人は確定した。だから、彼ももしかしたらと言っていたんだが、手切れ金を共に彼女へ譲ったそうだ。だから、詳しく調べさせるとアニータがまだ所有していたので、これは間違いないということになった」

「あっ……お父様は、大丈夫だったんですか?」

 錯乱するような薬を打たれて自我を失っていたというお父様は、クインを救いだそうとして、どうにか王妃の手から逃れてきたはずだ。

「ああ……長期間打たれていた薬を抜くのはこれから時間がかかるだろうが、君も居なくなったと聞いて、急にしっかりとした口振りで話し始めた。妻を喪ったが彼にとって今大事なのは、残された二人の子どもなのだと……ようやく、気がついたんだと思う」

「そうですか……それは、良かったですけど……」

 なんだか釈然としないのは、家まで用意していた婚約者を捨てて、お母様を選んだというお父様の良くない過去だ。

 けれど、人生を誰と過ごすのかを決めるのは、お父様その人でしかないのだから、私が彼を非難しても、それは違うのかもしれない。