「シズナ、ありがとう」


「っ…」


「俺たちの夢、叶えてくれて」



それぞれ、夢がある。
甲子園という場所に懸けた思いが。

きっとそれは私たちだけじゃなく、甲子園球場に集まる全員、ひとりひとりに存在するもの。


楽しくなってきたね、友利。



「…んじゃ、行ってくるわ」


「…うん」



久賀くんと森さんの賑やかさにテンポを崩されたらしい友利は、どこかもの足りなさそうに私から手を離した。


「…頑張って」と小さく伝えた私も、もどかしい気持ちをどうにか消す。



「ん?洸大?どーした?」



荷物をトランクに詰めて、ぞろぞろと乗り込んでいくなか。

バスが完全に見えなくなるまで見送るつもりだった私のもとへ、クルッとUターンした彼が再び向かってくる。


なにか忘れ物……?と、首を傾けていると。


目の前に立った影は、意を決した面持ちで、勢いよく私の後頭部を引き寄せた。



「っ……!!」



そのスピードからは想像できないほどの、柔らかさ。

唇と唇が合わさっているんだと気づいたときにはまた、少し不器用ながらにも押し付けられる。