天音さんに貸しを作りたいワケではないが、例え私じゃなくても目の下に熊さんを飼っている人間を見たら世話を焼きたくなるだろう。
仕事の都合で授業を受けられない彼が単位を取るためには、こうして誰かに頼るしか方法がないのだ。
「はいどうぞ」
「どうも」
指定された科目の他にも、最近受けた授業のプリントやルーズリーフを閉じているファイルごとを天音さんに渡す。きっと他にも出席出来なかった授業がいくつもあるにちがいない。
その考えはどうやら当たっていたようで、彼は次々にページを捲っては写真を撮っていた。
「アンタの字、見やすくて助かる」
「褒めても天音さんが喜ぶものは何も出せませんよ」
ちゃんと真面目に板書を写していて良かったと、今日ほど思う日はなかっただろう。