「ねぇ、由里。俺は君を諦めたなんて、一言も言ってないよ?」


私がどんな気持ちであの時婚約破棄を告げたと思っているの。

家が決めた婚約者候補に確かに相馬さんの名前はあった。

しかし、両親や本家はもっと由緒ある会社との縁が欲しかったようだった。

それでもそんな反対を押し切り、私たちは婚約した。

それでも、あの日「大嫌い」と叫んだ私に貴方は何も言わなかった。

もう、貴方の言葉なんて信用したくない。


「もう一度言います。相馬さんなんて、私は大嫌いです」


そうはっきり述べた私の口に相馬さんはそっと人差し指を当てた。