オルグが書類を抱えて廊下を歩いていた。

「娼館といったら」
 いきなり話しかけてみた。

「あの女を連れ出すのは難しかったんじゃないのか。護衛を連れていたとはいえ、部屋に一人で入って行ったと聞いたぞ。大丈夫だったのか、悪くすれば用心棒に袋叩きにされただろうに」

 オルグはまっすぐ顔を向けた。

「それでもアーロン様以外の方が王になることは考えられませんでした。シュテルツ様からお聞きしたのです。あなたは、政治とは国民をつなぐパイプのようなものだとおっしゃっていたのだと。あの言葉には感銘いたしました」

 二人の廊下での立ち話だった。

「私は故グリンドラ王に左遷されて二年間地方をさまよいました。その間いろいろなことを考えました。上に立つ方の力量ですべてが左右されるのです。最善の道を辿れるのかそうでないのか、それが決まっていくのです」

 そして、
「そのためなら私の命などちっぽけなものです」
 そう言ってわらった、含羞の笑みだった。

「これからよろしく頼む。いっしょにやって行こう、この国のために」
 ア―ロンが一直線に彼を見た。


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