シュテルツが病室に帰って来た。
 途方もなく大きな勤めを果たした思いがした

 疲れがたまっていた、しかしそれを凌駕するほどの高まりもあった。

 窓からツタが見えた。

 昔のことが思い出される。
 前宰相のレブロン卿だった。

 あるとき彼は仕事の手を止めて壁を見ていた。
 それがあまりに長かったのでシュテルツが聞いた。
「何をご覧になっているのですか」

「あれだよ、あれ。ツタだ」

「え、ツタ、でございますか」

「そうだ。あれが壁を這っていくのは面白いものだよ。一日一日と芽が伸びて先を目指そうとする。私にはそれが、この国の民が生きていく姿に見えるのだ、懸命に生きて、働いて生活の糧を得ようとしている姿にね」

 政務の第一人者として、長い間この国を導いてきた人だった。
 
 その面差しを、さり気ない言葉を、忘れることが出来なかった。

 いつでもシュテルツの念頭にあって、骨幹を支えてきたのだ。


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