ガイゼルが会場から消えた。
 それで彼に同調しようとしていた流れも消滅した。

 シュテルツは改めてア―ロンを次期国王に推挙した。
 会場を見渡して、
「異議がある方はいらっしゃいますか。もし反対意見がある方は今この場で発言を願います」

 会場の全員がシュテルツを見ていた。
 一分、二分、しばらくしても静まったままだった。

「それでは、今ここにグリント―ルの新国王が誕生しました。アーロン・ハインツ殿がこの国の国家元首に立たれたことを宣言いたします」

 辺りはしばらく静まっていた。
 そして大きな拍手が起こった。

 シュテルツに促されてアーロンが立ち上がった。

 彼はじっと会場を見渡してから、
「指名されたアーロン・ハインツだ。私の考えを聞いてもらいたい。今のこの国がどういう状況にあるのか。諸外国の有様、とくにバッハスを見て考えることがある」

 ゆっくりと切り出した。

「大勢が暮らす国を統治するのはたやすいことではない。一人の王が道を間違えば全国民に苦難が降りかかる。私がセンダで見たことがまさにそれだった。ゆえにどうすればいいのか。私は国の民が誰でも意見を持ち、行政に関与していける体制をつくりたいと思っている。(まつりごと)を見る目が多ければ多いほど道を間違えたりはしないのだ」

「まつりごとを、見る目が多いほど?」
「道を間違えたりしない?」

 誰かが反復する。

「私はそんなグリントールにしたいのだ、今までにない国だ。そうして新しい社会を創るのだ」

 声には力があった。
 それが終わっても会場はしんと静まっていた。