「お前、軍隊に入らないか」
「え?」
「入れよ、そしたら俺がお前の性根を叩き直してやる」

 ティムは蒼白になった。

「人のものを盗ったら犯罪だ。ネイラはお前が何かするたびに傷ついている、それがわからないのか」

 ハインツ家の庭でティムと向き合っていた。

 彼は屋敷内であれば部屋から出られるようになっていた。
 うろうろしている姿を見つけてアーロンが声をかけたのだ。

「向こうを見てみろ」
 ネイラがティムの洗濯物を干していた。Tシャツのしわを伸ばしてじっと眺めている。次には祈る仕草をしていた。

「母親は大事にするものだ、そうだろう?」
 ティムはそっぽを向いている。

「俺などはな、大事にしたくても出来ないんだよ。三歳の時に死に別れて顔も思い出せないときがある。こんな人だったかなとおぼろに浮かんでくるだけで」