しかしアーロンの眼光に押されて、
「その印章を手下に渡そうとしたんだ、でも約束の金をくれようとしなかった。だから俺は奴を叩きのめして印章を奪って逃げたんだよ」

 そのとき、母は事態を知って驚愕した。
 印章をお屋敷に返せと迫った、しかし息子は応じない。

 問答のうちに時間が経った、次第にラクレス家に出入りできなくなっていく。
「どうしたらいいのかと。大恩あるお屋敷の方々を、ソフィー様を裏切ることになってしまって」

「それから?」
「私たちはラクレス領にもいられなくなって」
「センダにやって来たんだ、知り合いがこっちでいい仕事があるからと言ったんだ」

「そのセンダがこんなことになってしまったのだな」
 答えの代わりに二人がうつむいた。

「話は分かった。グリントールへ帰る馬車はもうない。だが俺らが帰るときに連れて行こう」
「っ! 連れて、行く?」

 息子が目を剥いた。

 立ち上がって後ずさりする。
 天幕の端まで来ると逃げるように走って行った。