最前線を迂回しながら国境検問所に近づく。
 その周囲に戦いはなかった。バッハスの両軍はさすがにマリンドウに配慮しているのだろう。

 避難民は疲れた様子で地面に座っていた。

 配下が近づき尋問する。
 同胞と知って彼らに喜色が浮かぶ、あわてて駆け寄ってこようとした。

 彼らを保護下に置きたい、だがアーロンら三十名に対して彼らは五十余名、さらに老人や子供が予想外に多い。
 バッハスの戦闘が絶えず移動しているなか、この体制で国軍まで誘導するのは無理だ。

 アーロンは目の前のマリンドウの検問所を見た。
 扉は固く締まって誰もいないように見える。しかし窓際のカーテンが揺れたように思った。

 足早に近づいて、
「誰かおられるのか」
 しかし返事はない。

「今日の会見に参上したグリント―ルのアーロン・ハインツだ。もし誰かおられるならご面会願いたい」
 彼はフォーマルアタイア姿だった、会見用の礼服だ。警戒を解いてくれるのを願った。

 扉が小さく開いた。職員のような男が、
「アーロン・ハインツ様ですね、どうぞお入りください」

 部屋の奥に中年の男がいた。マリンドウの宰相だった。

「これはこれは、この状況下でよくおいで下さいました」
 型通りの挨拶を済ませたあと、
「こんな事態になるなどとは思ってもみず」
 苦り切って告げた。

「ハインツ殿、このセンダに長居は無用です。バッハス国はこの先無法地帯になりましょう、新旧の王がこれほどの戦いを起こしたのですから」
「同感です、今大事なのはどうやって脱出するかです」