ドッドッドと駆けてくるのは早馬だろうか。
 こんな夜更けに? 
 見えもしないのに庭を凝視した。

「大変ですっ! 宰相殿が、シュテルツ様が暴漢に襲われて」
 男の大声が玄関に響き渡った。

 次々と部屋に明りが灯っていく。

「くわしく話せ! いったいどうしたのだ」

 湯殿から上がったア―ロンが詰問した。

 ア―ロンが外出着を着込む。
 外に出ると馬丁が馬を用意していた。

 ソフィーに向かって、
「もしかして王宮に詰めることになるかもしれない。峠が過ぎたらすぐ帰ってくる、だからこの屋敷で待っていてくれるか」

 ソフィーは昼間会ったシュテルツを思い浮かべた。
 温厚な笑顔を浮かべて語り掛けてくれたのだ。

「どうぞお怪我が大したことがありませんように」
 アーロンが側近らと駆け出して行く、その姿に手を合わせた。