湯あみのあと、二階に通された。

 豪奢なテーブルにドレッサーや飾り棚があり、まるで貴賓室のようだった。

「ここがソフィー様のお部屋でございます。ご用があればいつでもお呼びくださいませ」
 と侍女は早々に退出した。
 目を合わせようとしない意図を感じて、また落ち着かない。

 少し開いた窓から風が吹き込んでいた。
 そこに近づいてみる。

 玄関横に篝火があり、大門から続く石畳を映している。

 アーロンは間もなくこの部屋にやって来る。
 それから・・。
 頬が赤らんでくるのがわかった。

 差し伸べられた手を振り払う気持ちはない。
 あのラクレス邸で一晩を過ごした。あの日の気持ちに変わりはないのだ。

 ア―ロンに望まれたからこの道を進むの?
 いや違う、それを自分が望んでいるからだ。あの人と一緒にいたいからだ。

 篝火がゆらゆらと燃えていた。
 パチパチとはじける炎、風になぶられる炎。

 と、暗い闇から物音がした。
 馬の蹄だった。