「これで時間つぶそっか」

そう言って取り出していたのは、トランプが入ったケース。

「……」

私の話、全然聞いてなかったんだな。

何も返してくれなくて、むなしさを感じる。

「またババ抜き?」

ひじをついて、カードを切る彼にたずねると、彼は微笑んだまま、

「いや、今日は神経衰弱」

と答え、狭いカウンター席のテーブルに、1枚、1枚と表向きで並べていく。

カードが置けるようにコップを乗せたトレイを端に寄せていた私は、あることに気づいた。

「これ、この前と違うカード?」

表の柄の色が以前と違ったのだ。前回は赤かったのだが、今回は青い。

「あー、そうだね。あれもカバンに入ってるけど、今はこっちの気分だから」

「……“気分”」

可笑しな人だなと思った。

大抵の人は暇つぶしと言えばスマートフォンを触る。遊びたい場合、ゲームだってできちゃうから。

トランプを持ち歩くこと自体が珍しいのだけれど、普通は持ち歩いても1ケースだと思う。

そもそも、使う機会ってあるのかな。

学校では黒髪の姿でいることが多いはずで、友達なんていなさそうなのに。