これからこの男と2人きりだというのに、気まずくて仕方がない。
「今の話、本当?柚葉ちゃん」
車を動かしながら、真剣な面持ちでこの男がたずねてくる。
こんな表情見たことがない。
「えっと……」
「もしかして、そう思うのは元カレのことが原因かな」
「……」
「図星みたいだね」
どうしてこの男はわたしの表情を見ずにわかってしまうんだろう。
勘が良すぎるのも考えものだ。
「好きになったからって失うものはないと俺は思うよ」
さらにこの男は続けた。
「でも、好きになることを怖がっていたら、何も進めないし、何も得られないよね」
この男の言葉が重くのしかかる。
わたしにだって言いたいことはわかる。
わかるけど、それを認めてしまったら……
「だから、俺は自分の気持ちに素直にまっすぐぶつかることにしたんだ」
自分の気持ちを認めてしまったら、この先どうなってしまうんだろう。
自分の気持ちなのに、わからないなんて。
また間違いをおかしてしまいそうで、怖いんだ。
わたしは一度もそんな彼の言葉に返すことができなかった。