地下室につながる戸が嫌な音を立てながら開き、そこからにやついた顔をした人間の男が顔を出した。
「見ぃつけた。こんなところにいたのか」
獲物を追いつめるようにゆっくりと階段を下りてくる男の姿に、少年は思わず持っていた鎌を取り落とす。情けないことに、震えが止まらなかった。
そんな少年を嘲笑うように、男は地下から地上へと強引に引っ張り出す。
このまま妹とふたり、奴隷として売られるしかないのか──。そんな絶望に目の前が真っ黒に染まった、その時だった。
「ダ、ダルア王国軍だ!」
男の仲間と思しき青年が、血相を変えて小屋まで飛び込んでくる。
「何!? おい、今すぐずらかるぞ!」
青ざめた男が少年を放り出し、慌ててその場から逃げようとしたが、もう遅かった。
「ここにいる人間をすべて捕らえよ! 我が国の民を奴隷として売り払おうとした、外道どもだ!」
その命令に、たちまち兵士たちが奴隷商たちを拘束する。
放り出された拍子に床に倒れ込んだ少年は、愕(がく)然(ぜん)とその光景を眺めていた。だがやがて、ゆっくりと近づいてくる人影に気づき、恐る恐る相手の顔を見上げる。
銀色の髪に琥(こ)珀(はく)色(いろ)の髪をした、長身の男性だった。耳と尾は見当たらないが、少年は本能で、相手が自分と同じ獣人であることを悟る。
男性は少年に向かって手を差し伸べると、力強く助け起こした。
「大丈夫か」
「あ、ありがとう。あなたは──」
「陛下。奴隷商はすべて捕らえました」
少年の言葉を遮るように、男性の後ろから眼鏡(めがね)をかけた別の男性が声をかける。
その言葉に少年は一瞬目を見開いた後、慌てて銀髪の男性の腕に取りすがった。
「陛下……ってことは、あなたが王さまなの!? ねえお願い、僕の家族を助けて! 人間に連れ去られたんだ!」
「こら、離れなさい」
眼鏡の男性──恐らく侍従だろう──が、やんわりと少年をたしなめる。しかし国王は「構わん」と短く言って、少年と視線を合わせるように床に膝をついた。
「お前の家族は、必ず助ける。人間にさらわれた他の獣人もだ」
「本当?」
「ああ。俺は、決して嘘はつかない」
優しい眼(まな)差(ざ)しで少年の頭を撫(な)でた国王は、静かに立ち上がると、一転して厳しい声で兵士たちに命じた。
「我らはこれより、レビオン王国へ向かう。獣人を虐げるかの国の王を、決して許すわけにはいかない!」
「はっ! ダルア王国に栄光を!」