私が握りしめている歯ブラシを見て、魔王様は『あっ!』という顔をした。
「ごめん、タイミング悪かったね」
「いいんです。どうしたんですか?」
「もしお風呂がまだだったら、少し時間をもらえないかなって思ったんだけど……」
「まだなんで、大丈夫ですよ」
「でも急ぎじゃないから、明日でもいいんだ」
「いえ。口だけゆすいでくるんで、ほんの少し、そこで待っててください」
私のことを止めようとする魔王様を振り切って、再び洗面所へ向かった。
魔王様のことを後回しにして、これ以上淋しい思いをさせたくないと思ったのだ。
夕食の時間……
リナさんもレオさんも食事は取らない。
だから、私と魔王様のふたりでゆっくり食事をした。
けれど、お互いによく知らない者同士だし、私に至っては魔界に来てまだ2日目……
そのスタートはギクシャクとしていた。
「今日は何して過ごしてた?」
うん、そのぐらいしか聞くことがないよね。