魔王様は一見、表情を崩さなかった。


けれど、私にしかわからないほど微かに目を見張ったのを、私は見逃さなかった。


それから一呼吸置いて、ようやく私に話しかけてきた。


「僕の花嫁、」


……ん?


この人、今何て言った?


「名前は何という?」

「内藤ミクル……です」


ヒソヒソ話が聞こえてきた。


「ずいぶんと貧相だな」

「それに弱そうだが、あれで魔王様の花嫁になれるのか?」


また『花嫁』と聞こえた。


しかも今度は『魔王様の花嫁』と……


思った通り、この人は王子様でなくて魔王様で合ってたんだ。


ところで困ったことに巻き込まれた。


私も仮装行列の参加者、それも魔王様の花嫁役と間違われているらしい。